河岸や河川敷に散乱するごみから見えること 愛知県河川ごみ実態調査
株式会社ピリカ(以下、ピリカ)は、令和5年度に愛知県内の河川ごみの実態調査に係る業務を実施しました。この調査は、海洋プラスチックごみの多くが陸域から発生していることを踏まえ、陸域のごみが海へと流れ出る経路である河川周辺(河岸・河川敷)を対象に、ごみの分布状況や組成を把握し、効果的な発生抑制対策を提案することを目的とした調査です。環境省や国土交通省のガイドラインに基づいた調査方法に加え、ピリカのもつ技術やサービスも活用して調査を行いました。
1.資料やタカノメ自動車版のデータを活用し調査地を選定
愛知県内に流れる複数の河川の流域人口、流域面積、延長距離、周辺の土地利用状況に関する文献資料の情報に加え、陸域の散乱ごみ分布調査サービス「タカノメ自動車版(以下、タカノメ)」のデータ等を数値化し、河川ごみの実態を効果的かつ効率的に把握することができる調査水域および調査地点を選定しました。
タカノメは、車両にスマートフォンを搭載し走行中に撮影した動画からAIによって路上の散乱ごみを検出し、定量的にごみの状況を可視化します。これにより、地域間や日別、月別等でごみの多寡を比較することができます。撮影は複数の事業者の協力によって行われています。今回の調査でも愛知県内の協力事業者に撮影いただいたデータを用いて分析を行いました。
愛知県のごみ分布密度データからは、名古屋市をはじめとする尾張地域の人口密集エリアの主要駅や棟梁付近、河川の合流地点等でごみの密度が高い一方で、西三河地域や東三河地域ではその密度が低いことがわかりました。
2.河岸・河川敷のごみ量をランク付け
調査地点の選定後、散乱ごみや粗大ごみの量を把握する概況調査と呼ばれる調査を行いました。環境省の「散乱ごみ実態把握調査ガイドライン」、国土交通省の「河川ごみ調査マニュアル」等に従い、調査地点ごとに河岸や河川敷を踏査し平均的なごみ量の場所を選定します。選定した場所で河川延長方向に10m帯状のエリアを囲い、エリア内のごみ量を20Lのごみ袋換算で記録していきました。同時に粗大ごみが廃棄されていれば、その件数や量、種類、場所を記録していきました。
調査結果はごみ量によってランク付けし地図上に可視化した他、各水域別や河川別にグラフ化して県内全体の傾向を抽出しました。人口が集中している地域の散乱ごみの量は多く、人口が少ない地域では少ないという当たり前の傾向が見えただけでなく、粗大ごみは人口の影響がやや小さくなることや、人口が多い地域でも管理の行き届いている公園付近等、条件によってはごみが少ない地域もあることが明らかになりました。
3.ごみを回収し分類ごとに個数、容積、重量を調べる
概況調査の調査地点の中から8地点を選定し、ごみの分類ごとに個数・容積・重量を計測する詳細調査を行いました。分類は環境省の「地方公共団体向け漂着ごみ組成調査ガイドライン」に準拠しました。プラスチック、発泡スチロール、ゴム、ガラス・陶器、金属、紙・段ボール、天然繊維・革、木(木材等)、電化製品・電子機器、自然物、その他がもっとも大きな分類の枠で、この調査では自然物以外のごみを対象に組成を調査しました。
すべての調査地点でプラスチックが個数・容積・重量のどの項目においても最も割合が高く、プラスチックの中の品目では個数ベースで多い順に「ポリ袋」「たばこの吸殻(フィルター)」「ペットボトル<1L」、容積ベースで「テープ(荷造りバンド等)」「ペットボトル<1L」「ポリ袋」、重量ベースで「ポリ袋」「その他」「ペットボトル<1L」でした。身近な生活環境で普及しているプラスチックの流出の影響がみてとれます。この結果と愛知県の海岸を対象とした漂着ごみ調査の結果を比較すると、漂着ごみ調査のプラスチックの割合はより高くなります。軽く移動性の高いプラスチックごみは海洋ごみになりやすいことが示唆されました。(詳細はこちらを参照)
4.効果的なごみの発生抑制対策へ
河川に影響を及ぼす範囲は広範囲に渡るため、効果的なごみ対策は容易ではないと言われています。しかし、この度の調査結果では、周辺の人口密度や土地の利用状況、橋梁や公園といったインフラの状況等、地域環境の特徴に応じた発生抑制対策の立案に関する様々なヒントを得ることができました。特に、タカノメのデータによって路上ごみが非常に多い“ホットスポット”が可視化され、路上から河川に流出するごみの発生源推定に役立つ情報や、ごみが多い場所での清掃活動の誘導につながる情報を得られることで、より発生抑制対策の効果を高められる可能性が見えてきました。
さらに、タカノメのごみ分布データは協力事業者の方々によって日々追加していただいているため、日単位でごみ分布の状況の変化を追うことができます。今回の調査地点の一つでごみ量のランクが高いところにおいて、上流域から下流域にごみの分布密度の高いエリアが日を追うごとに移動していく状況が確認されました。ごみの分布密度の移動については様々な角度からより詳細な情報の収集・精査が必要ですが、陸域のごみが河川に流出している実態を検証する手段としてタカノメを利用できる可能性があります。
またピリカでは、ごみの発生抑制対策としてごみ拾いSNS「ピリカ」を用いて清掃活動の呼びかけや管理に活用することや、不法投棄通報機能を用いて個人で対処が難しいごみを行政に情報共有することも提案可能です。河川付近でごみが多い場所で清掃イベントを企画して拾いに行くといった、より環境問題解決への貢献に寄与できる具体的なアクション提言につながります。
さいごに
愛知県河川ごみ実態調査の結果から、効果的な発生抑制対策の一つとして、海洋への流出経路である河川周辺で、タカノメのようなごみの多寡を表示する技術を用いて、特にごみが多い“ホットスポット”における清掃活動を誘導するといった対策が導き出されました。
ピリカは、ごみの流出問題の解決を目指しごみの回収・調査に関する様々なサービスを開発してきました。今後もピリカは、ごみの流出問題解決に向けた画期的な手法の開発と有効性の高い対策の提案に取り組んでいきます。
令和5年度愛知県河川ごみ実態調査結果の概要はこちら
環境省 散乱ごみ実態把握調査ガイドラインはこちら
環境省 地方公共団体向け漂着ごみ組成調査ガイドラインはこちら
国土交通省 河川ごみ調査マニュアルはこちら
自治体名:愛知県 業種:地方自治体 調査サービス:コンサルティング、タカノメ